深夜、山あいの道を車で走っていると、助手席の窓を、こつこつと叩く音がする。メーターは時速80キロを指している。窓の外を見ると、白髪の老婆が、車とぴったり同じ速さで、横を走っている――。「ターボババア」は、そんな恐ろしい光景で知られる都市伝説だ。
あらすじ
ターボババアの話は、だいたい次のような形で語られる。
- 夜、山道や高速道路、トンネルの中を車で走っていると、窓を叩かれる
- 窓の外を見ると、老婆が車と並んで走っている。四つん這いで走っているとも言われる
- アクセルを踏んでも、老婆は離れない。やがて、車を追い抜いていく
- 追い抜かれた車は、そのあと事故を起こしてしまう
老婆の背中には「ターボ」と書かれた紙が貼られている、という話もある。いつ、どの車の前に現れるのかははっきりしておらず、ふつうに走っていると、突然後ろから追いつかれる、というパターンが多い。
▶ この話を「体験」する――STORY
「六甲のトンネルで窓を叩かれても、絶対に抜かせるな」――休憩室で仕事仲間に聞いたその決まりを、僕は、あの夜、必死に守った。それが間違いだとも知らずに。
広まった経緯とバリエーション
ターボババアがよく現れる場所として名前が挙がるのが、兵庫県の六甲山だ。六甲山の道路を走る車に、四つん這いの老婆が並走してくる、という形で紹介されることが多い。
こうした「ものすごい速さで走る老婆」の噂は、1990年代ごろから全国で一気に増えたと言われる。そして、そのぶん名前のバリエーションも非常に多い。
- ジェットババア:ターボババアの前身とも言われる。ジェットエンジンのような速さで走る
- 100キロババア:時速100キロで走る老婆。北海道の湖の周りの道路で見たという話もある
- ダッシュババア、ハイパーババア、光速ババア:「ターボ」の部分がさらに強くなった派生形
- 40キロババア、80キロババア、120キロババア:走る速さがそのまま名前になったもの
このほか、名古屋には「ジャンピングババア」という老婆の話も伝わっていて、ターボババアから派生したという説もある。走る老婆の怪異は、地域ごとに少しずつ形を変えながら、各地で語られてきたのだ。
また、漫画・アニメ『ダンダダン』に登場するキャラクター「ターボババア」の元ネタとしても知られ、作品をきっかけにこの都市伝説を知った人も多い。
実際の事件との関連
ターボババアと直接結びつく、実際の事故や事件は確認されていない。「追い抜かれた車が事故を起こした」という話も、その多くは誰かから聞いた話として語られるもので、具体的な日時や場所がわかる記録は見つかっていない。
ただ、六甲山のような山道は、急なカーブや見通しの悪い場所が多く、夜間には実際に事故が起きやすい道でもある。高速道路に現れて車やバイクを追い抜き、事故を起こさせるという話は、同じころに流行した「人面犬」にも見られる。危ない道でのスピードの出しすぎや、夜の運転への不安が、こうした怪異の形で語られてきたとも考えられる。
心理学・民俗学から見た考察
夜の高速道路やトンネルを長く走っていると、単調な景色と疲れから、注意力が落ちていく。人の脳は、暗がりの中のはっきりしない影を、人の姿のように見てしまうことがある。並んで走る白い影や、窓に当たる何かの音が、「走る老婆」として記憶されたのかもしれない。
民俗学の目線で見ると、山にはもともと「山姥(やまんば)」のように、人間離れした力を持つ老婆の言い伝えが数多くある。山の中を信じられない速さで駆け回り、旅人を追いかける老婆の話は、昔話にもよく登場する。ターボババアは、そんな山の老婆の怪異が、車社会の時代に合わせて姿を変えたものだ、という見方もできるだろう。
また、「なぜ老婆なのか」という点については、弱々しいはずの老人が、車よりも速く走るという意外さが、怖さとおかしさの両方を生んでいる、という見方もある。ターボババアが、怖い話であると同時に、どこか笑える話としても広まったのは、そのためかもしれない。
真相は?考察まとめ
ターボババアの正体については、山姥の現代版だという説、夜の運転中の錯覚が生んだ幻だという説、危険な山道でスピードを出さないための戒めだという説など、さまざまに語られている。どれが本当なのかは、はっきりしていない。
はっきりしているのは、この「走る老婆」の話が、何十年ものあいだ、名前や速さを変えながら語り継がれてきたということだ。ジェットになり、ターボになり、光速にまでなった老婆は、今も日本のどこかの夜道を走り続けているのかもしれない。
もしあなたが夜の山道で、窓を叩かれたなら。窓の外は、見ないほうがいい。
▶ 読み終えたら、次は体験を――STORY
「六甲のトンネルで窓を叩かれても、絶対に抜かせるな」――休憩室で仕事仲間に聞いたその決まりを、僕は、あの夜、必死に守った。それが間違いだとも知らずに。
※本記事は、ネット上の体験談や諸説をもとにした考察記事です。

