ドライブインの肉
※この物語はフィクションです。
「ガソリン、大丈夫か?」
助手席の友人が聞いた。
「残り少ないけど、次の町まで行けば」
峠道は、思っていたより長かった。
ナビは何度も電波を失っている。
空腹が、限界に近かった。
そのとき、道路脇に看板が見えた。
「手打ちうどん・特製肉料理 ドライブイン やまびこ」
色褪せた文字。
古びた平屋。
「入ってみる?」
「他に選択肢ないだろ」
私たちは車を停めた。
店内は、木の匂いがした。
奥から、腰の曲がった老爺が出てくる。
「いらっしゃい」
笑顔だった。
「今日のおすすめは、肉料理だよ」
断る理由もなかった。
運ばれてきた皿。
照りのある肉。
一口食べて、言葉を失った。
「うまい……」
友人も、同じ顔をしていた。
老爺が、にこにこと見ている。
「うちは、特別な仕入れ先があってね」
壁を見ると、写真が何枚も貼られていた。
若者たちの笑顔。
「あの写真は?」
「お客さんだよ。みんな、また来るって言ってくれてね」
老爺は、少しだけ寂しそうに笑った。
食事を終え、会計を済ませる。
老爺が、玄関まで見送りに来た。
「また来てくれるかい」
「はい、また」
社交辞令で答えた。
老爺は満足そうに頷いた。
それから半年後。
友人が一人で、同じ道を通ったらしい。
後日、彼から連絡が来た。
「あの店、なかったよ」
「え?」
「看板も、建物も。何もない」
「道、間違えたんじゃないの」
「何度も確認した。あの場所だった」
私は、笑い飛ばそうとした。
けれど、友人の声は真剣だった。
「それに」
「まだ何かあるの」
「近くのコンビニで、店員に聞いたんだ。やまびこって知りませんかって」
「知らないって?」
「いや」
友人は、少し間を置いた。
「聞いたことあるって言われた。ただし」
「ただし?」
「三十年前に廃業して、それきり誰も見ていないって」
私は、あの日食べた肉の味を思い出した。
確かに、この舌で味わった。
幻覚だとは思えないほど、鮮明に。
友人が、続けて言った。
「もう一つ、聞いたことがあるんだけど」
「何」
「あの店、店主が『また来てくれるかい』って聞いた相手は」
友人の声が、少し掠れた。
「必ず、その後行方不明になるって」
私はスマートフォンを見た。
あの日、壁の写真を何気なく撮っていた。
フォルダを開く。
写真はあった。
けれど、若者たちの顔ぶれの中に、見たことのない一枚が増えていた。
笑顔で写る、自分自身の姿だった。
撮った覚えのない写真だった。
もし、あなたが峠道で「また来てくれるかい」と聞かれたら――どう答えるべきか、今のうちに決めておいた方がいい。
この物語のベースとなったドライブインの肉の都市伝説・起源と真相、その起源と真相はこちら。
ドライブインの肉の都市伝説・起源と真相|峠の食堂に潜む、絶品料理の正体

