くねくねの都市伝説を題材としたショートストーリー

STORY

くねくね

※この物語はフィクションです。

あれを見たのは、小学生の頃の夏休みだった。

毎年、兄と一緒に祖父母の家へ遊びに行っていた。

北海道の田舎だった。

家の周りには広大な畑が広がっている。

見渡す限り緑色の景色が続き、その向こうには低い山並みが見えた。

昼になると地面から熱気が立ち上り、遠くの景色は陽炎でゆらゆらと揺れて見える。

その日も朝から暑かった。

祖父母は家の中で昼寝をしていた。

退屈した私と兄は、近くの用水路へ遊びに出かけた。

魚を探したり、石を投げたりしながら土手を歩く。

兄は中学生だった。

私はまだ小学生で、兄の後ろをついて回っていた。

しばらく歩いていると、兄が急に立ち止まった。

「おい」

遠くを見つめている。

「何?」

「何かいる」

兄が指差した。

畑の向こう。

ずっと遠く。

陽炎の中に白いものが見えた。

最初は農作業をしている人だと思った。

だが妙だった。

動いている。

しかも動き方がおかしい。

風に揺れているようにも見えるが違う。

体そのものが曲がっている。

あり得ない角度に折れ曲がりながら、左右に揺れている。

私は目を細めた。

だが遠すぎてよく分からない。

兄は首を傾げた。

「何だあれ」

ちょうどその時、兄が祖父の双眼鏡を持っていることを思い出した。

鳥を見るために持ってきていたのだ。

兄は双眼鏡を取り出した。

私は興味本位で言った。

「見せて」

兄から受け取って覗いてみる。

しかしよく見えない。

ピントが合わないのか、陽炎のせいなのか。

白いものがいることだけは分かる。

だが輪郭がぼやけている。

気持ちが悪くなって、すぐに双眼鏡を下ろした。

「見えない」

兄は笑った。

「貸せ」

そして双眼鏡を覗いた。

最初は普通だった。

「あー……確かに白いな」

そう言っていた。

だが少しずつ様子が変わっていく。

無言になった。

双眼鏡を持ったまま動かない。

私は飽きて石を蹴って遊んでいた。

何分くらい経っただろう。

ふと兄を見る。

まだ見ている。

「兄ちゃん?」

返事がない。

「もう帰ろうよ」

その時だった。

兄が小さな声で言った。

「そういうことか」

私は聞き返した。

「何が?」

兄は双眼鏡を覗いたまま答えた。

「分かった」

背筋が冷たくなった。

兄の声が妙だった。

嬉しそうでもなく、驚いているわけでもない。

ただ納得したような声だった。

「何が分かったの?」

兄は答えない。

しばらくして双眼鏡を下ろした。

その顔を見た瞬間、私は嫌な気持ちになった。

兄は笑っていた。

だが、どこを見ているのか分からない。

目の焦点が合っていなかった。

「帰るぞ」

兄はそう言った。

帰り道、兄は一言も喋らなかった。

家へ戻ると祖母が迎えてくれた。

しかし兄の顔を見るなり表情が変わる。

「どうしたの」

兄は答えない。

ただ笑っている。

夕食の時も同じだった。

何を聞かれても曖昧に笑うだけ。

祖父が不審そうに尋ねた。

「何か見たのか」

兄はゆっくり顔を上げた。

そして言った。

「分かった」

祖父の顔色が変わった。

「何を見た」

兄は答えない。

ただ繰り返す。

「分かった」

その夜だった。

兄がおかしくなった。

突然笑い出したのだ。

大声で。

意味もなく。

祖父母が慌てて部屋へ駆け込む。

兄は笑いながら天井を見ていた。

そして何かを呟いている。

だが何を言っているのか分からない。

祖母が泣いていた。

祖父は顔面蒼白だった。

私は恐ろしくなって布団を被った。

翌朝。

兄はいなかった。

病院へ連れて行かれたらしい。

だが詳しいことは誰も教えてくれなかった。

祖父母も両親も、その話になると口を閉ざした。

兄はその後、一度も家へ戻らなかった。

私は大人になった今でも、あの日のことを覚えている。

夏の暑さ。

畑の匂い。

陽炎の揺れる景色。

そして、遠くにいた白い何か。

何年か後、祖母に聞いたことがある。

「あれは何だったの?」

祖母は黙り込んだ。

長い沈黙のあと、こう言った。

「知らなくていい」

「でも兄ちゃんは……」

祖母は首を振った。

そして静かに言った。

「分かってしまったんだろうね」

それ以上は語らなかった。

今でも私は時々思い出す。

あの日、兄が見ていたものを。

何を理解したのか。

何が見えたのか。

あれは人だったのか。

生き物だったのか。

そもそも、この世のものだったのか。

何一つ分からない。

ただ一つだけ確かなことがある。

兄は、あれを見続けた。

そして何かを理解した。

理解した瞬間に、元には戻れなくなった。

だから私は今でも、真夏の田畑を眺める時は遠くを見ない。

陽炎の向こうに何か白いものが見えても、決して目を凝らさない。

もし見えてしまったとしても。

もし分かってしまったとしても。

兄のように、二度と戻れなくなる気がするからだ。


この物語のベースとなったくねくねの都市伝説、その起源と真相はこちら。
くねくねの都市伝説・起源と真相

コメント

タイトルとURLをコピーしました