この話を聞いた人のところには、三日以内に、それが来る。
俺がそう聞かされたのは、高校二年の冬、昼休みの教室だった。
「テケテケって知ってる?」
言い出したのは、隣の席の大地だった。大学生の兄貴から聞いたのだという。
昔、冬の北海道で、女の人が踏切で電車にはねられた。体は腰のところで、まっぷたつにちぎれた。ところが、あまりの寒さで傷口の血管が一瞬で凍りつき、女の人はすぐには死ねなかった。上半身だけで、腕で地面をかいて、何十メートルも這ったのだという。自分の足を探して。
「それが今でも、夜の線路沿いに出るんだって。下半身がなくて、手だけで追いかけてくる。肘で地面をつくから、テケ、テケって音がする。めちゃくちゃ速くて、走っても逃げられない」
大地は、声を低くした。
「で、つかまると、『足、どこ?』って聞かれる。答えられないと、鎌で体を半分にされる。そいつと同じになるまで」
「答えなんてあるのかよ」
「ある。兄貴に教わった。助かる答えが、ひとつだけある。それはな」
そこで、昼休みの終わりのチャイムが鳴った。
「続きは、明日な」
大地はそう言って笑い、教科書を出した。
その日、俺は補習で遅くなった。学校を出たのは夜九時を回っていた。
駅までの近道は、線路沿いの細い道だった。片側が金網で、その向こうが線路になっている。道には、昼間に降った雪が薄く残って、凍っていた。
半分ほど歩いたところで、音がした。
テケ。
少し間をおいて、もう一度。
テケ。
硬いものが、凍った地面を打つ音だった。金網の向こう、線路のほうから聞こえた。
立ち止まって、金網の向こうを見た。線路の上は暗くて、何も見えなかった。
テケ。テケ。テケ。
音が、少しずつ速くなった。そして、近づいてきた。
遠くの踏切の明かりが、一瞬、線路の上を照らした。
枕木の上に、女がいた。
白いコートを着ていた。長い髪が顔にかかっていた。両方の肘を交互につき出して、体を前へ引きずっていた。
腰から下が、なかった。
コートの裾から、赤黒いものが何本も、ひものように垂れていた。凍って固まったそれが、枕木に当たって、からからと鳴っていた。
テケテケテケテケ。
女の顔が、こっちを向いた。
俺は走った。凍った道で何度も転びそうになりながら、駅のほうへ走った。
テケテケテケテケテケ。
音は、金網一枚向こうを、ぴったり俺と同じ速さでついてきた。
道の先に、踏切があった。警報機が鳴りはじめ、遮断機が下りてくるところだった。俺は、下りかけた遮断機の下をくぐって、線路を渡った。
渡りきった瞬間、すぐ後ろを、貨物列車が通りはじめた。
長い貨物列車だった。轟音の中で、俺は踏切の向こう側にしゃがみ込んでいた。列車が通り過ぎるまで、何分もかかった。
列車が行ってしまうと、踏切の向こうには、誰もいなかった。
線路の上に、何かを引きずった跡が一本、暗がりのほうへ続いていた。
次の日、大地は学校に来なかった。
二時間目の途中で、担任が青い顔で教室に入ってきた。
大地は昨夜、自宅近くの踏切で、電車にはねられて亡くなった。
それ以上のことを、担任は言わなかった。
あとで、大地と同じ中学だった奴から聞いた。大地の体は、腰のところで二つに分かれていた。上半身は、踏切から何十メートルも離れた線路脇で見つかった。腕で地面を這ったような跡が、残っていたという。
下半身は、まだ見つかっていない。
大地は、答えを知っていたはずだった。兄貴に教わったと言っていた。
それでも、助からなかった。
俺は、答えを聞いていない。チャイムが鳴って、続きは明日、と言われたまま、その明日は来なかった。大地の兄貴の連絡先は、知らない。
あの話を聞いてから、今夜で三日目になる。
部屋の電気をつけたまま、ベッドの上で膝を抱えている。午前二時を過ぎた。
さっき、一階の台所で、音がした。
テケ。
フローリングの床を、硬いものが打つ音だった。
テケ。テケ。
音は廊下を進んで、止まった。それから、階段を一段ずつ、上ってきはじめた。
テケ。……テケ。……テケ。
音は、階段のいちばん上で止まった。
ドアのすぐ向こうで、声がした。女の声だった。
「だいちくんは、こたえを、まちがえたよ」
ドアノブの下のあたりを、硬いものが、こつ、と叩いた。
「ねえ。あし、どこ?」
この物語のもとになったテケテケの都市伝説、その起源と真相はこちら。
テケテケの都市伝説・起源と真相
※この物語はフィクションです。実在の場所や伝承を題材にしていますが、登場人物・出来事はすべて架空のものです。

