杉沢村伝説の都市伝説を題材としたショートストーリー

杉沢村伝説の都市伝説・起源と真相|地図から消された村は本当に実在するのか STORY

※この物語はフィクションです。実在の場所を題材にしていますが、登場人物・出来事はすべて架空のものです。

「本当に、こんな道で合ってるのかよ」

助手席の拓也がスマートフォンの地図アプリを見つめながら、不安げに呟いた。運転席の航太は、カーナビの表示すら怪しくなっている画面を横目に、ハンドルを握る手に力を込めた。後部座席には、大学の後輩である美咲と由紀が、緊張した面持ちで座っている。

四人が向かっているのは、青森県の山中に存在するとされる、「杉沢村」だった。オカルト好きの航太が、大学のサークルの肝試し企画として提案し、勢いで決行することになった旅だった。前日まで、四人はネット上の体験談や掲示板の書き込みを読み漁り、それらしい林道の場所を絞り込んでいた。中には「実際に行ってみたが何も見つからなかった」という書き込みもあれば、「途中で引き返した」という不穏な報告もあり、出発前から車内の空気はどこか緊張していた。美咲だけは最後まで「やめた方がいいんじゃない」と渋っていたが、結局は好奇心に負けて同行することにしたのだった。

「ネットの情報だと、この林道をずっと進んだ先に、入り口があるはずなんだけどな」

航太はそう言いながら、アクセルを踏み込んだ。舗装されていない砂利道は、車を大きく揺らしながら奥へと続いている。街灯もなく、ヘッドライトの明かりだけが頼りだった。時刻はすでに夜十時を回っている。町を出てからというもの、対向車どころか、人の気配すら一切感じられなくなっていた。カーラジオも、山に入ってからは雑音しか入らなくなり、航太はしばらくして電源を切った。車内に残るのは、タイヤが砂利を踏む音と、四人の緊張した呼吸だけだった。

「さっきから、同じ景色ばっかり見てる気がするんだけど」美咲が窓の外を見ながら呟いた。

「気のせいだろ。似たような林道が続いてるだけだよ」

拓也がそう答えたが、その声にも自信はなさそうだった。実際、道は右に左にくねりながらも、周囲の木々の様子はどこまでも似通っていて、進んでいる実感が薄かった。時計を見ると、林道に入ってからすでに一時間近くが経過している。地図アプリ上では、まだ入り口にすら到達していないことになっていた。

「そろそろ引き返した方がいいんじゃないか」

由紀が不安そうに言うと、航太は少しむきになったように反論した。

「せっかくここまで来たんだから、もう少し進んでみようよ。看板とか、それらしいものが見えたら引き返せばいいし」

そう言った直後、ヘッドライトの光の中に、朽ちかけた木の看板が浮かび上がった。かすれた文字で何かが書かれていたが、経年劣化のせいでほとんど判読できない。ただ、車内の空気は一瞬で張り詰めた。

「これ、それっぽくない……?」

拓也の声が震えていた。航太は車を看板の手前で停め、四人でそっと車を降りた。外に出た瞬間、四人は揃って気づいた。虫の声も、風の音すらも、ほとんど聞こえない。あまりにも静かすぎる森だった。懐中電灯で看板を照らしてみると、辛うじて「立入」という二文字だけが読み取れた。看板の周りには、朽ちた縄のようなものが巻きつけられており、それが余計に不気味さを増していた。

「本当に、来ちゃったのかもしれない」

美咲が声を潜めて言った。四人はしばらく無言のまま、看板の先に広がる暗闇を見つめていた。木々の隙間から、かすかに朽ちた建物のようなシルエットが見える気がした。目を凝らせば凝らすほど、その輪郭は不気味な存在感を増していくようだった。

「引き返そう」

由紀がきっぱりと言った。今度は誰も反論しなかった。四人は逃げるように車に乗り込み、来た道を戻ろうとした。しかし、航太がハンドルを切ってどれだけ進んでも、周囲の景色は一向に変わらなかった。同じような木々、同じようなカーブ、そして先ほどと同じ、朽ちかけた看板が再び目の前に現れた。

「なんで……戻ってきてるんだよ」

航太の声には、はっきりとした動揺が滲んでいた。何度も道を変えようと試みたが、結果は同じだった。どの道を選んでも、必ずあの看板の前に戻ってきてしまう。三度目に同じ看板が現れた時、後部座席の由紀は両手で顔を覆い、声を殺して泣き始めた。車内の空気は完全に凍りついていた。誰も口を開かないまま、エンジン音だけが虚しく響いていた。

「携帯、圏外になってる」拓也が震える声で言った。「さっきまで繋がってたのに」

その時、車の外から、かさかさという音が聞こえた気がした。四人は息を潜め、窓の外を見つめた。木々の間を、何かが移動しているような気配があった。人影のようにも見えたが、あまりに暗く、はっきりとした輪郭は分からなかった。美咲は思わず由紀の手を強く握った。誰も声を発することができないまま、その気配だけが、車をゆっくりと取り囲むように移動していくのを、四人は息を殺して見守ることしかできなかった。

「気のせいだよ、きっと」

航太はそう言いながらも、声には力がなかった。エンジンをかけ直し、もう一度アクセルを踏み込む。今度は、来た方向とは逆に、思い切って別の脇道へと車を進めてみることにした。ハンドルを握る航太の手のひらは、汗でぐっしょりと濡れていた。

しばらく走ると、不意に視界が開け、見覚えのある県道に出た。四人はほっと息をつき、無事に町の明かりが見える場所まで戻ってこられたことに、心から安堵した。コンビニの明るい看板が見えた瞬間、由紀は堪えきれずに声を上げて泣き出した。誰もそれを笑うことができなかった。航太は車をコンビニの駐車場に停め、しばらくの間、誰も口を開かないまま、それぞれ荒い息を整えていた。

翌日、四人は昨夜のことを冷静に振り返ろうとしたが、誰一人として、あの看板の正確な位置を思い出すことができなかった。地図アプリの走行履歴を確認しても、林道に入ってからの記録は、なぜか同じ場所をぐるぐると回っているだけの、不自然な軌跡になっていた。時刻の記録にも妙な点があった。体感では二十分ほど同じ道を彷徨っていたはずなのに、記録上ではその区間だけが一時間半近くにも及んでいたのだ。

「あれ、本当に杉沢村だったのかな」

美咲がぽつりと呟いたが、誰も答えることができなかった。拓也は帰宅後、あの夜撮影しようとしたはずの看板の写真を確認してみたが、なぜかそのタイミングのデータだけが、スマートフォンのカメラロールから見つからなかった。ファイルが破損しているわけでもなく、単純に、その時間帯の記録だけがまるごと存在していないのだという。拓也はそのことを誰にも言わず、一人で何度もカメラロールを見返しては、首をかしげていた。

それから四人は、あの夜のことを、あえて詳しく話さないようにしている。サークルの集まりで誰かがその話題に触れそうになると、決まって誰かが話をそらすようになった。ただ、航太だけは今も時々、あの看板の前で感じた、こちらを見つめる何かの気配を思い出すことがあるという。あの視線が今もどこかで、自分たちのことを見ているのではないかと、ふとした瞬間に思うことがあると、航太は誰にも言わずに、一人で抱え続けている。時折、車のバックミラーを何気なく見た瞬間、あの夜の暗闇がふと重なって見えることがあり、そのたびに航太は、無意識にアクセルを強く踏み込んでしまうのだった。


この都市伝説の起源や真相が気になった方は、解説記事もあわせてご覧ください。

杉沢村伝説の都市伝説・起源と真相


※この物語はフィクションです。

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