※この物語はフィクションです。実在の場所を題材にしていますが、登場人物・出来事はすべて架空のものです。
友人の美咲の様子がおかしくなったのは、二週間ほど前からだった。
いつも通り送っていたメッセージへの返信が、日に日に短くなっていった。「元気?」「うん」。「今度遊ぼう」「うん、また今度」。そっけない一言だけが、ぽつりぽつりと返ってくる。
大学の帰り、久しぶりに顔を合わせた美咲は、彩花が話しかけても上の空だった。スマートフォンを握りしめたまま、画面を何度も確認している。誰かに監視されているような、そんな怯えた目をしていた。
「美咲、最近どうしたの」
彩花が尋ねると、美咲は一瞬、何かを言いかけて、結局首を横に振った。
「……なんでもない。ただ、ちょっと調べてたことがあって」
それ以上は聞き出せなかった。その日を境に、美咲からの返信はさらに途絶えがちになり、ついに一週間、まったく連絡が取れなくなった。
心配になった彩花は、共通の友人にも聞いて回った。誰も、美咲の行方を知らなかった。美咲の家族に連絡すると、本人はアルバイトには行っていることになっているが、部屋に閉じこもりがちで、家族とも会話が減っているという。
彩花は、美咲の様子がおかしくなる直前、彼女がSNSで何かのキーワードを検索していたことをふと思い出した。断片的に見えたその文字列を、彩花は震える指でスマートフォンに打ち込んだ。
「赤い部屋」
検索結果には、古いネット掲示板のスレッドや、まとめサイトが並んでいた。「検索すると死ぬ」「消しても消えないポップアップ」――くだらない怪談だと思っていた噂が、そこには詳しく書き連ねられていた。もし美咲が、本当にこれに関わっていたのだとしたら。
彩花は、リンクの一つをタップした。
美咲を見つけるための、手がかりが欲しかっただけだった。それだけのつもりだった。
ページが開いた瞬間、画面の中央に、小さなウィンドウがポップアップした。
『あなたは好きですか?』
指が止まった。慌てて閉じようとする。消えない。何度タップしても、ウィンドウは画面の中央に居座り続けている。
『あなたは……好きですか?』
文字が、少しずつ書き換わっていく。スマートフォンのスピーカーから、か細い声が聞こえた気がした。彩花は電源ボタンを連打した。画面が暗くなる。
大丈夫。消えた。
そう思った矢先、真っ暗になった画面に、再びぼんやりと光が灯った。
『あなたは赤い部屋が好きですか?』
画面が赤一色に染まった瞬間、彩花はその赤い光の奥に、うっすらと文字の羅列が浮かび上がっているのに気づいた。目を凝らす。それは、この赤いページを訪れた者たちの名前が並んだ、長い一覧だった。
一番下、まだ新しい位置に刻まれた名前を見つけた瞬間、彩花の手からスマートフォンが滑り落ちた。
そこには、「美咲」の名前があった。
彩花は震える手でスマートフォンを拾い上げようとしたが、画面はすでに真っ暗になっていて、何も映っていなかった。
数日後、美咲は自室で倒れているところを家族に発見された。命に別状はなかったが、目を覚ました美咲は、何があったのかを一切覚えていないと話しているという。
彩花は今も、自分のスマートフォンの検索履歴を消せずにいる。「赤い部屋」という文字列を、そこにもう一度打ち込む勇気は、まだない。
もしあなたの大切な人が、急に様子がおかしくなり、画面ばかり見つめるようになったら。心配するあまり、その足取りを追おうとする前に、一度だけ考えてみてほしい。
その先で、あなたの名前が刻まれることになるかもしれない。
この都市伝説の起源や、なぜここまで語り継がれているのか気になった方は、解説記事もあわせてご覧ください。
※この物語はフィクションです。

