ひとりかくれんぼの都市伝説を題材としたショートストーリー

ひとりかくれんぼの都市伝説・起源と真相|たった一人で行う禁断の降霊術 STORY

※この物語はフィクションです。実在の場所を題材にしていますが、登場人物・出来事はすべて架空のものです。

真夜中の1時を過ぎても、亜美はまだ眠れずにいた。ベッドの脇に置いた古いうさぎのぬいぐるみを見つめながら、スマートフォンで開いたままの掲示板の文字を、もう何度目かも分からないほど読み返している。

『ひとりかくれんぼ』——コックリさんに似た、一人で行う降霊術。ぬいぐるみに自分の一部を入れて鬼にし、探し出す遊び。ネットの体験談には、面白半分で始めて後悔したという話が並んでいたが、亜美の目を引いたのは別のことだった。半年前に別れた恋人が、まだ自分のことを覚えているかどうか。それを知りたいという、ただそれだけの理由で、亜美はこの儀式に手を出そうとしていた。

同僚に相談したこともあったが、「もう忘れなよ」と言われるだけだった。友人にも同じことを言われた。分かっている。分かっているつもりだった。それでも夜になると、彼と過ごした時間が頭の中で何度も再生されて、眠れなくなる。占いにも行った。友人にも背中を押してもらって、新しい出会いのアプリも試した。それでも心のどこかで、まだ諦めきれずにいる自分がいた。だから、こんな怪しげな儀式にまで手を伸ばそうとしているのだと、亜美自身も自覚していた。

「別に、信じてるわけじゃないし」

誰に言うでもなく呟きながら、亜美はうさぎのぬいぐるみの背中に入っていた綿を少しずつ取り出していった。手が震える。刃物を使うのは久しぶりだった。取り出した綿の代わりに、キッチンから持ってきた米を詰め、爪切りで切ったばかりの自分の爪の欠片をいくつか忍ばせる。縫い合わせる手つきはぎこちなかったが、掲示板に書かれていた通りに、赤い糸で全身をぐるぐると巻きつけた。

作業をしながら、亜美はふと、このぬいぐるみを買ってくれたのが誰だったかを思い出していた。小学生の頃、誕生日に祖母が買ってくれたものだ。もう十年以上も前のことなのに、いまだに手放せずにいた。こんな儀式に使うのは間違っている気がしたが、他に手頃な人形は見当たらなかった。

「最初の鬼は、亜美だから」

三回、声に出して唱える。自分の声が、思ったより大きく部屋に響いて驚いた。そのまま浴室へ向かい、水を張った浴槽にぬいぐるみを沈める。ぬいぐるみは一瞬だけ水面に浮かび、それからゆっくりと沈んでいった。うさぎの顔が、水の底でこちらを見上げているように見えて、亜美は目をそらした。

部屋に戻り、家中の明かりを消す。廊下も、キッチンも、玄関も、すべて真っ暗にした。リビングに戻ってテレビをつけ、チャンネルを合わせずに砂嵐の画面のままにする。ザザザという音だけが部屋を満たした。目を閉じて、10数える。

「1、2、3……」

数を数えている間、亜美は自分の心臓の音がやけに大きく聞こえることに気づいた。掲示板に書かれていたのは、ただの遊びのはずだった。それなのに、なぜこんなに手が震えているのだろう。頭のどこかで、今すぐやめた方がいいという声が聞こえた気がしたが、亜美は数を数えるのをやめなかった。

「……10」

目を開けて、用意しておいた包丁を手に取る。刃を握る手のひらに汗がにじんでいた。浴室へ向かう廊下は、真っ暗で、自分の家のはずなのに、やけに長く感じられた。壁に手を這わせながら進む。指先が、いつもより冷たいドアノブに触れた。

浴室のドアを開けると、月明かりが小さな窓から差し込んで、水面に浮かぶうさぎの姿をぼんやりと照らしていた。亜美は震える声で言った。

「亜美、見つけた」

そう言いながら、包丁の刃をぬいぐるみに突き立てる。ぬいぐるみを覆っていた赤い糸が、一本、また一本と切れていく。水しぶきが跳ねて、亜美の頬にかかった。冷たかった。それだけのはずだった。

「次は、亜美が鬼」

言い終えると同時に、亜美は用意しておいた塩水の入ったコップを掴み、浴室を飛び出した。廊下を走り、クローゼットの奥に身を潜める。心臓が痛いくらいに脈打っていた。ドアを閉め、暗闇の中で膝を抱える。

しばらくは何も起こらなかった。ただ、リビングから聞こえる砂嵐の音だけが、遠く近く聞こえていた。亜美は目を閉じて、時間が過ぎるのを待った。決められた時間内に見つけ出せば終わる——それだけを、心の中で繰り返していた。

クローゼットの中は狭く、膝を抱えていると次第に足がしびれてきた。それでも動く気にはなれなかった。掲示板の体験談の中には、隠れている間に部屋の外で誰かが呼びかけてくる、名前を呼ばれても絶対に返事をしてはいけない、という注意書きもあった。亜美はそれを思い出すたびに、体を小さく丸めた。

どれくらい経っただろうか。ふと、廊下を歩く足音が聞こえた気がした。ぺた、ぺた、と、素足で濡れた床を歩くような音。亜美は息を止めた。うさぎのぬいぐるみに足はないはずだ。それなのに、足音は確かに近づいてくる。クローゼットのすぐ外で、足音がぴたりと止まった。

「亜美」

小さな声がした。掠れていて、性別も判別できないような声だった。亜美は塩水の入ったコップを握りしめたまま、動けなくなっていた。返事をしてはいけない。頭の中でその一点だけを繰り返す。声はもう一度、名前を呼んだ。今度は少しだけ、彼のような声に聞こえた気がして、亜美の心臓が跳ねた。まさか、そんなはずはない。頭では分かっていても、指先が勝手にドアの取っ手に伸びかけて、亜美は自分の手を強く握りしめて止めた。

やがて足音は、諦めたようにゆっくりと遠ざかっていった。亜美は掲示板に書かれていた注意書きを思い出す。時間内に見つけ出さなければ、ぬいぐるみの方が先にこちらを見つけてしまう——そう書かれていた気がする。それが本当なら、今、外を通り過ぎたものは、いったい何だったのか。

亜美は意を決してクローゼットの扉を開けた。廊下には誰もいなかった。ただ、床に点々と、濡れた足跡だけが残されていた。その足跡は、亜美の部屋の方へと続いている。

震える足でその跡をたどると、自分のベッドの上に、あのうさぎのぬいぐるみが横たわっていた。包丁で刺したはずの傷口から、水が滴り落ちている。亜美は塩水を口に含み、震える手でぬいぐるみに残りの塩水をかけた。

「私の勝ち。私の勝ち。私の勝ち」

三回唱え終えると、ぬいぐるみはただの濡れたぬいぐるみに戻ったように見えた。亜美はその場に座り込み、しばらく動けなかった。時計を見ると、儀式を始めてから一時間半ほどが経過していた。掲示板に書かれていた制限時間ぎりぎりだった。もう少し遅ければどうなっていたのか、考えたくもなかった。

翌朝、亜美は儀式の作法通り、ぬいぐるみを庭で燃やして処分した。祖母からもらった大切なぬいぐるみだったが、これ以上手元に置いておく気にはなれなかった。灰になっていく様子を見つめながら、少しだけ安堵したのを覚えている。彼のことも、これで少しは吹っ切れるかもしれない——そんな淡い期待もあった。

けれど、それから数日経った夜、部屋で机に向かっていると、背後の壁に映る自分の影が、一瞬だけ二重に見えることがあった。振り返っても、そこには誰もいない。気のせいだと自分に言い聞かせて机に向き直ると、また同じことが起こる。まるで、もう一人の自分がすぐ後ろに立っているかのような感覚だった。

それだけではなかった。夜、玄関の鍵を確認する時、なぜかドアの隙間から、微かに水の匂いがすることがあった。浴室を確認しても、特に変わったところはない。それでも、あの夜クローゼットの外で聞いた足音と、掠れた自分の名前を呼ぶ声のことを、亜美は今も忘れられずにいる。あれは本当に、ただの空耳だったのだろうか。それとも——燃やして処分したはずのあの儀式は、本当にきちんと終わっていたのだろうか。


この都市伝説の起源や真相が気になった方は、解説記事もあわせてご覧ください。

ひとりかくれんぼの都市伝説・起源と真相


※この物語はフィクションです。

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