記憶にない同居人の都市伝説を題材としたショートストーリー

STORY

記憶にない同居人

※この物語はフィクションです。

「懐かしいでしょう、これ」

母が、古いアルバムを開いた。

押し入れの奥から出てきた、色褪せた一冊。

幼い私と、両親の写真。

ページをめくる。

見覚えのない男の子が、そこにいた。

一枚だけじゃない。

何ページにも渡って。

まるで、家族の一員のように。

「この子、誰?」

母が、キョトンとした顔をした。

「お兄ちゃんじゃない」

頭が、真っ白になった。

「私に、兄なんていないよ」

「何言ってるの」

母は、笑いながら言った。

でも、目は笑っていなかった。

父を呼んだ。

父も、写真を見て頷いた。

「健太だよ。よく一緒に遊んでただろう」

健太。

その名前に、心当たりはなかった。

「小学校、どこ通ってたの」

「お前と同じだよ」

父が、別のアルバムを取り出す。

入学式の写真。

私の隣に、あの男の子が立っている。

ランドセルを背負って。

「今、どうしてるの」

両親の表情が、変わった。

母が、先に口を開いた。

「小学四年生のとき、事故で」

それ以上、誰も何も言わなかった。

その日から、何度もアルバムを見返した。

健太は、いつも笑っていた。

私の記憶には、どこにもいない兄が。

数日後、戸籍謄本を取り寄せた。

そこには、確かに名前があった。

健太。

生年月日。

そして、短い生存期間を示す日付。

本当に、いたのだ。

実家に帰るたび、写真を見返すようになった。

ある日、新しい違和感に気づいた。

写真の中の健太が、少しずつ、私に近づいてきている。

最初は、隣に立っているだけだった。

次に見たときは、肩に手を置いていた。

その次は。

耳元に、口を寄せているように見えた。

母に確認しても、「同じ写真でしょう」と言われるだけだった。

ある晩、実家で一人、アルバムを開いた。

健太の顔が、写真の中で、こちらを向いていた。

今までは、レンズに向かって笑っていたはずだった。

今は、まっすぐ私を見ている。

唇が、動いた気がした。

声は聞こえない。

ただ、口の動きだけが、分かった。

「代わって」

私はアルバムを閉じた。

押し入れに戻し、二度と開かないと決めた。

それから数か月後。

母から電話があった。

「ねえ」

「何?」

「アルバム、見た?」

「見てないよ」

母は、少し黙った。

「今、写真の中の子供、一人しかいないのよ」

「それが普通でしょ」

「違うの」

母の声が、震えていた。

「あなたが、写ってないの」

もし、あなたの家に見覚えのない家族写真があったら――そこに写っているのが、本当に「もう一人」の方だと、言い切れるだろうか。


この物語のベースとなった記憶にない同居人の都市伝説・起源と真相、その起源と真相はこちら。
記憶にない同居人の都市伝説・起源と真相|家族だけが覚えている、存在しないはずの兄弟

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