首なしライダーの都市伝説を題材としたショートストーリー

首なしライダーの都市伝説・起源と真相|峠に潜む頭のないバイク乗りの正体 STORY

首なしライダー

※この物語はフィクションです。

その夜、俺は原付で峠を越えようとしていた。理由は単純で、いつも使っている県道が土砂崩れで通行止めになっていたからだ。カーナビが示した迂回路は、地図上では細い線一本の山道で、ガソリンスタンドの店員に道を聞いたとき、少しだけ顔が曇ったのを覚えている。

「その道、夜は使わない方がいいですよ」

理由を聞いても、店員は「なんとなく、地元の人はみんな避けてるだけです」と曖昧に笑うだけだった。時刻はすでに深夜0時を回っていて、他に選べる道もなかった。俺は半分冗談だと思いながら、その峠道にヘッドライトを向けた。

山道に入ってすぐ、街灯が一つもないことに気づいた。両側から伸びる木々の枝が頭上を覆い、月明かりすら遮っている。エンジン音とタイヤが砂利を噛む音だけが、やけに大きく響いていた。カーブが連続する道を、俺はできるだけ慎重に走った。

スマートフォンの電波も、峠に入って早々に圏外になっていた。何かあっても連絡が取れない。そう気づいてから、余計に道の先へ進む以外の選択肢がなくなった気がした。標識も見当たらず、対向車どころか動物の気配すらない。聞こえるのは自分のエンジン音と、木々のざわめきだけだった。

十五分ほど走った頃だろうか。バックミラーに、一つのヘッドライトが映った。

最初は何とも思わなかった。こんな時間でも、峠を越える誰かがいてもおかしくない。ただ、そのライトの近づき方が、少しおかしかった。普通ならカーブに合わせて左右に揺れるはずのライトが、まるで道の形を無視するように、まっすぐこちらに近づいてくる。

速度を落として道を譲ろうとした瞬間、そのバイクが俺のすぐ横を追い越していった。

一瞬だけ、視界の端にライダーの姿が入った。黒い革ジャンに、黒いバイク。そこまでは、よくある夜間ツーリングの装いだ。ただ、ヘルメットの位置が――どう見ても、低すぎた。

肩の上に、何も乗っていないように見えた。

俺は思わずアクセルを緩めた。見間違いだ、そう自分に言い聞かせようとした。暗い山道で、黒いフルフェイスのヘルメットと黒い服が重なって、首から上が闇に溶けて見えなかっただけだ。そう考えるのが一番自然だった。ガソリンスタンドの店員が浮かべた曖昧な笑みが、頭の片隅をかすめたが、それも振り払った。都会育ちの俺が、田舎道の暗さに気圧されているだけだ、と。

けれど、追い越していったバイクのエンジン音が、しばらく経っても遠ざからないことに気づいた。

むしろ、少しずつ近づいてくる。

ミラーを見ると、さっき追い越したはずのライトが、また後ろにいた。同じ黒いバイク、同じ角度。まるで俺の後ろにぴったりと張り付くように、一定の車間距離を保ったまま追走してくる。

俺は思わずアクセルを開けた。心臓が耳のすぐ近くで鳴っているような感覚だった。峠道特有の急なカーブが続く中、無理な加速は危険だと分かっていても、後ろのライトから離れたいという気持ちの方が勝った。

カーブを一つ、また一つと抜けるたび、ミラーの中のライトの位置を確認した。近づいたり、少し離れたりを繰り返しながら、それは執拗についてきた。不思議なのは、エンジン音だった。距離が近づいても、音量がほとんど変わらない。まるでライトと音がずれた録音のように、現実感のない一定さでついてくる。

途中、一度だけ路肩に待避スペースが見えた。とっさに減速し、そこに逃げ込もうかとも考えた。だが、体が動かなかった。もし止まった瞬間に、あのバイクも隣に止まったら――そう想像すると、止まる方がよほど恐ろしく思えた。結局、俺は速度を保ったまま、待避スペースを通り過ぎた。

やがて道が緩やかな直線に変わったところで、俺は思い切って後ろを振り返った。

バイクは、確かにそこにいた。ライダーの上半身のシルエットも、はっきり見えた。しかし、その肩から上には、何もなかった。ヘルメットも、頭部の輪郭さえも存在しない。ただ黒い革ジャンの襟だけが、風に揺れていた。

俺は前を向き直すのがやっとだった。それ以上、何かを考える余裕はなかった。ただひたすらアクセルを握りしめ、峠を抜けることだけを考えた。

後ろのエンジン音が、ふいに聞こえなくなったのは、峠の頂上にある小さな展望駐車場を通り過ぎた直後だった。ミラーを見ると、もうどこにもライトは映っていなかった。まるで最初から存在しなかったかのように。

峠を下りきり、街の明かりが見えてきたところで、俺はようやく路肩にバイクを止めた。手が震えて、しばらくハンドルを離すことができなかった。

数日の間、俺はあの夜のことを誰にも話さなかった。話したところで、暗い山道で見間違えただけだと笑われるのが目に見えていたし、自分自身、あれが本当に何だったのか確信が持てなかった。ただ、峠を下りてからの数日、バイクに乗るたびにミラーを何度も確認してしまう癖がついた。何もいないと分かっていても、視線がどうしても後方に吸い寄せられる。

後日、この話を地元の知人にしたところ、彼は驚いた様子もなく、こう言った。

「ああ、その道な。昔からあるんだよ、その噂。首なしライダーだろ」

初めて聞く名前だった。どうしてそんな名前がついているのか尋ねると、知人は事もなげに答えた。

「そのまんまだよ。首がないバイク乗りが夜な夜な走り回ってるって噂。昔、道路に張られたロープか何かでバイクの運転手が首を持ってかれた事故があったらしくてさ。それ以来、その峠を通ると首のないライダーに追いかけられるって、昔からずっと言われてるんだよ」

その名前を聞いた瞬間、あの夜、肩の上に何もなかった黒い革ジャンの姿が、頭の中でもう一度はっきりと像を結んだ。名前がつくということは、俺の他にも同じものを見た人間がいるということだ。その事実の方が、あの夜の出来事そのものよりも、俺には恐ろしく感じられた。

詳しく聞くと、その峠では過去に暴走族がらみのトラブルが何度もあったらしい。近隣の住民が対策として道路に張ったロープに、夜間走行中のバイクが引っかかったという話も、まことしやかに伝わっているという。「一人で先に行っちまって、仲間に置いてかれたまま出てくるって話もあるな」と知人は付け加えた。誰かに聞いたのか、それとも自分で作り上げた尾ひれなのか、彼自身にもよく分からないようだった。真偽のほどは誰にも分からない。ただ、「あの峠は夜に一人で走らない方がいい」という言い伝えだけは、今もその土地に住む人々の間で語り継がれているそうだ。

知人はさらに、似たような話を聞いたことがある知り合いが他にも何人かいる、と教えてくれた。バイクで、車で、あるいは徒歩で。それぞれ状況は少しずつ違うが、共通しているのは「後ろにぴったりとついてくる何か」と、「首から上に違和感がある」という点だった。誰かが誰かに聞いた話が積み重なって、少しずつ形を変えながら伝わっているだけなのかもしれない。それでも、俺自身の記憶にある、あの肩の上の空白だけは、どうしても言い間違いや聞き間違いでは片付けられない気がしている。

俺はそれ以来、あの道を二度と使っていない。迂回路がどれだけ遠回りになろうと、日が沈んでからあの峠に近づく気にはとてもなれない。ただ、たまに思うことがある。あのバイクは、今夜もどこかの峠で、誰かの後ろにぴったりとついているのではないか、と。


この物語のベースとなった首なしライダーの都市伝説、その起源と真相はこちら。
首なしライダーの都市伝説・起源と真相

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