メリーさんの電話の都市伝説を題材としたショートストーリー

メリーさんの電話の都市伝説 STORY

※この物語はフィクションです。実在の場所を題材にしていますが、登場人物・出来事はすべて架空のものです。

引っ越しの日、由美は押し入れの奥から、古い西洋人形を見つけた。

段ボール箱を運び出す作業に追われる中、奥の方に押し込まれていた小さな箱を開けると、色褪せた青い瞳がこちらを見上げていた。小さい頃、祖母にもらった人形だった。ブロンドの巻き毛は色褪せ、片方の目は心なしか濁って見える。ドレスの裾もほつれかけていた。

名前は覚えていないが、なぜか「メリーさん」と呼んでいた気がする。幼い頃は毎晩、この人形を抱いて眠っていた記憶がうっすらと残っている。だが、いつからか押し入れにしまい込んで、すっかり存在を忘れていた。

新しい部屋には、こんな古い人形を持っていく場所はない。一人暮らしを始める由美にとって、荷物はできる限り減らしたかった。少し躊躇ったものの、結局それを大きなゴミ袋に入れて、マンションのゴミ捨て場に置いてきた。人形の顔を見ないようにしながら、袋の口を固く縛った。

その夜、新居での荷解きをひと段落させた頃、由美のスマートフォンが鳴った。知らない番号だった。

「もしもし……?」

「私、メリーさん」

か細い、女の子のような声だった。由美は一瞬、いたずら電話かと思って切ろうとした。だが、次の言葉に手が止まった。

「今、ゴミ捨て場にいるの」

背筋が冷たくなった。由美は、今日ゴミ捨て場に人形を置いてきたことを、誰にも話していなかった。友達にも、家族にも。この番号を知る人間の中で、その事実を知っている者はいないはずだった。

「え……?」

答える前に、電話は切れていた。由美はしばらく、その場から動けなかった。きっと聞き間違いだ。誰かのいたずらだ。そう自分に言い聞かせて、その夜は早めに布団に入った。だが、なかなか寝付けなかった。

翌日の夕方、またスマートフォンが鳴った。同じ番号だった。

「私、メリーさん。今、駅にいるの」

由美の家の最寄り駅。声のトーンは前日と変わらず、あどけないままだった。由美は震える手で電話を切り、母親に相談しようとした。だが、母親は「疲れてるのよ、気にしすぎ」と笑って取り合ってくれなかった。実家に人形を置いてきたことすら、母親は覚えていないようだった。

その日の夜、また電話が鳴った。

「私、メリーさん。今、あなたの家の前にいるの」

由美は思わず、カーテンの隙間からベランダの外を覗き込んだ。マンションの前の通りには、街灯に照らされた誰もいない道が続いているだけだった。だが、確かに何かの気配が、すぐ近くにあるように感じられた。息を潜めて、由美はしばらくその場から動けなかった。

由美はその夜、一睡もできなかった。スマートフォンの電源を切ろうとしたが、指が震えて、なかなかボタンを押せなかった。もし電源を切っている間に、あの人形が本当にここまで来てしまったら――そんな考えが頭を離れず、結局、電源を切ることができないまま、朝を迎えた。

翌日、由美は思い切って、ゴミ捨て場まで確認しに行った。だが、あの日置いてきたはずの人形の入ったゴミ袋は、どこにも見当たらなかった。収集日はまだ先だったはずだ。管理人に尋ねても、誰かが持ち去ったのだろう、という曖昧な返事しか返ってこなかった。

三日目の夜。由美が部屋の電気を消して、布団に潜り込んだ直後、スマートフォンが鳴った。

震える手で、由美は電話に出た。

「私、メリーさん」

声は、今までよりも近く、はっきりと聞こえた。まるで、電話の向こうではなく、すぐ耳元で囁かれているかのようだった。

「今、あなたの……」

由美は、次の言葉を聞く前に、後ろを振り返った。

暗い部屋の中、押し入れの扉がわずかに開いていた。荷解きの途中、確かに閉めたはずの扉だった。

その先に何があったのか、由美は誰にも話していない。ただ、それ以来、由美の部屋に西洋人形が置かれることは二度となかった。実家に帰るたびに、玩具売り場や人形のコーナーを、意識的に避けて通るようになった。

もしあなたのスマートフォンに、今夜、見知らぬ番号から着信があったなら。それに出る前に、少しだけ考えてみてほしい。

あなたは最近、何か大切なものを、捨ててしまわなかっただろうか。


この都市伝説の起源や、なぜ今も語り継がれているのか気になった方は、解説記事もあわせてご覧ください。

メリーさんの電話の都市伝説・起源と真相


※この物語はフィクションです。

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